新体制の幕開け。誰も疑問を抱かない「夜10時退社」という職場の日常
事務所に走った激震
2年目を迎えた春、事務所に激震が走りました。 これまで上司Aの右腕として、また先輩派遣への厳しい「教育役」として君臨していた正社員Aが、関連会社へ出向することになったのです。
正社員Aは、歴代の退職者が残していった複雑な業務をすべて一人で抱え込んでいました。その業務範囲はあまりに膨大で、もはや彼にしか全容がわからない「ブラックボックス」と化していたのです。
その後任としてやってきたのは、中堅の正社員Bさん。 「これだけの量を引き継げるのだろうか……」 わずか1ヶ月足らずという無謀な引き継ぎスケジュールを傍で見守る私は、強い不安を覚えざるを得ませんでした。
先輩の再出発と、容赦なき「22時ルール」
一方で、先輩派遣も大きな転機を迎えていました。 彼女はこれまでの業務を離れ、新たに「外部提携している販売・保守事業」の経理を一手に引き受けることになったのです。その引き継ぎのため、彼女は1週間、自社の本社へと通い詰めました。
驚くべきは、上司Aの対応です。 本社での不慣れな引き継ぎで神経をすり減らしている彼女に対し、上司Aは「事務所に戻ってきて仕事をしろ」と命じ、連日22時まで業務を強いたのです。 この部署は、月初の締め処理をする4日間は、22時退社が“普通”でした。
誰も疑問を口にしない。その空気がいちばん怖かった。引き継ぎ期間中であろうと、その「鉄の掟」からは逃れられなかったのです。
1週間の引継ぎを終え、再び事務所に戻ってきた彼女の席は、以前と同じでした。しかし、彼女が向き合うのは、これまでとは全く異なる管理システムと複雑な精算ルール。同じ屋根の下にいながら、彼女は一人、全く別の世界の数字を扱う「孤独な領域」へと踏み出していきました。
他部署からやってきた「刺客」
それと同時に、もう一つ大きな動きがありました。人員の補充としてやってきた、正社員Cさんです。 上司Aからは人員を増員する話は聞いていましたが「みんなも知っているいっしょに仕事しやすい人だよ」とだけ聞いていました。実際は他部署の閉鎖に伴う「合流」という形での配属でした。
仕事をいっしょにしやすい人ってCさんのことだったのか。私も先輩派遣もこれまでの業務で関わりがあった人でした。 Cさんの印象は「問い合わせた際の返答が、少し冷たい人」。 仕事ができるという噂は聞いていましたが、彼女が経理に来ると知ったときは、「あの人が経理に……?」と、先輩派遣と顔を見合わせて不安を口にしたほどでした。
役者が揃い、空気が変わり始める
これまでは「上司A」と「正社員A」という強固な師弟ラインが支配していたこの部署。 そこに、他拠点から来た正社員Bさんや、他部署で実績を積んできたCさんが加わることで、現場のパワーバランスが微妙に崩れ始めました。
「みんなが仕事しやすい人」という上司の言葉は、果たして本当なのか? 心身を削る「22時ルール」の中で、先輩は耐えられるのか?
新体制がスタートする4月。 期待よりも不安が勝る中、私たちの経理チームは、誰かが崩れる。そんな予感だけが、静かに漂っていました。
15年経った今だからこそ、確信を持って言えることがあります。
もし今、あなたがかつての私や先輩のように、夜遅くまで電卓を叩きながら「これが普通なの?」と自問自答しているなら……一度、外の世界の「普通」を覗いてみるだけでも、心は軽くなります。


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