「『Bさんがいなくなるから頼む』。それは上司からの依頼というより、戦場での敗北宣言に近かった。」
予想通りの「呼び出し」
スーパー派遣が去り、正社員Bさんの退職も秒読みとなったある日。 現場を回せる人間が完全に行き詰まったその瞬間、私の予感通り、上司Aから呼び出しがかかりました。
「Bさんがいなくなるから、業務を一部引き継いでほしい」
つい先日、「あなたは余計な心配をしなくていい(自分の仕事だけしてればいい)」と私の好意を冷たく撥ねのけたばかりの人が、今度は困り果てた顔で頼み込んできたのです。 「人の好意を踏みにじるから、こういうことになるんだ」 私はどこか冷ややかな目で、上司Aの困惑した様子を眺めていました。
派遣会社との事前の「火種」
実はこの少し前、私は自分の時給UPについて派遣会社の担当者とやり取りをしていました。 しかし、返ってきたのは「会社に確認するとただ業務を増やしただけではダメみたいです。増えた業務の分は残業代を払っているので。業務改善などの具体的な成果を見せなければ考慮できないそうですよ」という、現場を知らない他人事のような回答でした。
「りんさん改善とか、得意な方?」担当者のその無神経な聞き方に、私は「いえ、苦手です」と即答して電話を切りました。改善以前に、崩壊を止める防波堤にすら正当な報酬を払わないというのか。その怒りで、電話を切る手が少し震えていました。
「条件」と「保証」を引き出す
そのやり取りは、裏で上司Aにも伝わっていたのでしょう。上司は私を説得するために、ある「カード」を切ってきました。
「りんさん、時給の相談をしてるって聞いたけど。このチェック業務を引き受けてくれたら、上に時給アップの相談をするから引き受けてくれないかな」
依頼されたのは、先輩派遣が行っている特定拠点業務の最終チェックでした。 本来、その業務は正社員Bさんしか把握しておらず、上司Aですら全貌を理解していないブラックボックスです。
私は、単に「はい」とは言いませんでした。 「私の方が先輩派遣より経理経験が長いからお願いしたい」という上司の言葉を逆手に取り、まずは時給アップを事実上約束させること。そして、引き継ぎ期間がわずか3日しかないという異常な状況に対し、「上司本人が必ず責任を持ってフォローすること」を条件として飲ませました。
「その条件が守られるなら、やりましょう」
勝ち取った「キーマン」の座
こうして私は、派遣社員という立場ながら、崩壊寸前の現場を救うキーマンとしての役割を自らの手で勝ち取りました。 しかし、私は、守るために選んだはずのその一手が、何か大切なものを削っていくことに、まだ気づいていませんでした。


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