同じ派遣会社なのに時給が違う?100円の壁と「即戦力」という名の使い捨ての末路
私たちが知ってしまった「100円の壁」
正社員Bさんが去った後、新しくやってきたのは、私たちと同じ派遣会社から送り込まれた女性でした。 偶然目にした求人情報から、私たちは残酷な事実を知ってしまいます。彼女の時給が、私や先輩派遣よりも「100円高い」ということを。
月給にすれば約2万円の差です。会社が誰をいくらで雇おうが自由なのは百も承知です。しかし、どうしても納得がいかなかったのは、上司Aが放った無責任な一言でした。
「彼女のフォローも、あなたたちでお願いね、社員Cさんはまだ経理よくわかっていないので。」
耳を疑いました。なぜ時給の安い私たちが、自分たちより高く評価されて入ってきた人のお世話をしなければならないのか。なぜ教育という「責任」まで、社員ではなく派遣の私たちが背負わされるのか。
派遣会社への直談判
私は我慢できず、定期訪問に来た派遣会社の担当者に詰め寄りました。
「単刀直入に伺います。新しく入った彼女、私たちより時給が100円高いですよね?」
担当者は一瞬、あからさまに動揺して視線を泳がせました。「それは、その……スキルの兼ね合いもありまして……」と、マニュアル通りの回答を絞り出そうとします。
「スキルの差は認めます。でも、納得がいかないのは運用の仕方です。時給の高い新人の教育を、なぜ時給の低い私たちが担わなきゃいけないんですか?」
私の言葉に、担当者は黙り込みました。 「教育は本来、受け入れ先である社員の仕事のはず。それを同じ派遣会社から来ている私たちに丸投げするのは、筋が通らないんじゃないですか?」
担当者は手元の資料をいじりながら、困り果てたような、申し訳なさそうな顔で私をなだめようとしました。 「りんさんの仰ることは、全くの正論です……。ただ、先方(上司A)からも『即戦力が欲しい、教育の手間を省きたい』と強く言われておりまして……」
結局、派遣会社は「客先」である上司Aに何も言えないのです。私たちの不満を吸い上げるフリをしながら、実際には「現場でうまくやってください」と丸投げしているだけ。担当者の渋い顔を見て、私はこの組織が、上から下まで「責任の押し付け合い」で成り立っていることを再確認しました。
「即戦力」という名の使い捨て
この私の抗議が、何らかの形で上司Aの耳に入ったのかもしれません。 翌日から、事務所の空気は一変しました。
「仕事が遅い」「引き継ぎはどうなっているんだ」と、かつて正社員Bさんを追い詰めた時と同じプレッシャーを新人派遣さんにかけ始めたのです。
そもそも、正社員ですら悲鳴を上げた膨大な業務量を、わずか2週間の引き継ぎで完璧にこなせという方が無理な話です。いくら「スーパー派遣」と呼ばれるスキルを持っていても、人間には限界があります。
目に見えて、彼女の顔色から生気が消えていきました。 そして、出社からわずか1週間。彼女は二度と姿を見せなくなりました。
お金で解決しようとした末路
横で見守っていた私と先輩は、ただ「だろうね」と冷ややかに納得するしかありませんでした。
教育というコストを放棄し、高い時給を払えば「即戦力」がすべての問題を魔法のように解決してくれる。そんな会社の安易な目論見は、脆くも崩れ去ったのです。 正社員Bさんに続き、スーパー派遣さんまでもが消えたデスク。 荒れ果てた戦場のような事務所に、次は何が補充されるのか。私はもう、誰が来ても期待しないと決めていました。期待することは、自分の消耗を早めるだけだ。この戦場が、私にそう学習させてしまったのです。


コメント