契約更新で突きつけられた一方的な条件。生き残るための自衛策
「静かなる覚悟」と、正社員Aへの視線
入社して1年が経とうとしていた頃、私の周囲では相変わらず不穏な空気が流れていました。 特に、先輩派遣にきつい態度で接し続ける正社員A。私はそんな彼を冷めた目で見つめながら、心の中で一つの覚悟を決めていました。
「次に標的になるなら、黙ってはいない。」そう決めていました。
入社して数年目の若手社員に、黙って従い続ける先輩派遣の姿は気の毒でしたが、同時に「なぜ言い返さないのだろう」というもどかしさも感じていました。 この会社では新人だとしても、彼女は他社で長年経験を積んできた人生の先輩です。それに対してあの無礼な態度はなんなのか。若手社員の未熟さもさることながら、それを注意もしない上司Aに対しても、腹立たしさが募っていました。
これまでいくつかの派遣先を経験してきましたが、このようなぞんざいな待遇を受けたことは一度もありませんでした。
幸いなことに、放置状態だった私には、正社員Aもそれほど牙を剥いてはきませんでした。伝票チェックなどで関わりはあったものの、彼はどこかで私を「何かあれば言い返してくる、少し面倒くさい相手」だと本能的に察していたのかもしれません。
自己防衛という名の「切り札」
私はこれまでの経験から、「人間は弱く出てくる相手に対して、際限なく大きく出る生き物だ」という確信を持っていました。
おとなしく返事をしていれば、相手の要求は無意識に、そしてどんどん高まっていく。かつての私は、第一印象の「怖そう」というイメージを払拭したくて下から出る癖がありましたが、それがかえって相手を増長させる原因になると気づいたのです。
いじめる側が悪いのは当然です。しかし、相手の言動をエスカレートさせないための「自己防衛」は欠かせません。私は「黙って聞くと思ったら大間違い」という逆襲の切り札を常に隠し持っていました。そうした私の空気感を、上司Aも正社員Aも、どこかで感じ取っていたのでしょう。
1年目の終わりに届いた、冷ややかな召集
そんな中、ある日突然、私と先輩派遣は、上司Aから会議室に呼び出されました。 議題は、次期の「契約更新」について。
そこで言い渡されたのは、あまりにも一方的な業務変更の宣告でした。
「次期から、二人の業務を入れ替えます。先輩には別の拠点(外部提携している販売・保守事業)の経理を担当してもらう。それに伴い、先輩がこれまで担当していた業務は、すべてりんさんに引き継いでもらう。―それを念頭に置いて、更新するかどうか考えてください」
具体的な説明も、こちらへの配慮も一切ありません。 ただ、「やるか、辞めるか」。 血の通わない二択だけが、冷たいテーブルの上に放り出されたのです。
「ものの言い方」に隠された、残酷な評価
上司Aは、根っから悪い人ではないのかもしれません。しかし、その発言は常に高圧的で、相手を思いやる「ものの言い方」を知らない人でした。
部屋を出た後、私と先輩は顔を見合わせました。 「あれって、どういうこと? 実質、辞めてほしいってことなのかな……」
実は先輩は、前回の更新時に「仕事の覚えが悪い」と厳しい注意を受けていました。改善しないようであれば契約更新はないと言われ、彼女はこの数ヶ月ずっと生きた心地がしていなかったのです。結果的にクビは免れたものの、待っていたのは「未経験業務への配置転換」という、新たな試練でした。
突きつけられた条件、揺れる心
新しい仕事を引き受けるには、自社の本社まで1週間通って引き継ぎを受ける必要がありました。 もともと遠方から通勤していた彼女にとって、さらなる早起きと長距離移動は体力的な負担も大きく、不安は募るばかり。
「これを引き受けないと、次はもうない……」
派遣の世界では、会社から「切られる」という場面に遭遇することは珍しくありません。それでも、目の前で起きている残酷な光景に、私は強い衝撃を受けました。
「新しいチャンス」と捉えるか、それとも
悩む彼女に、私は精一杯の言葉をかけました。 「一時は更新すら危ぶまれていたんだから、新しいチャンスをもらえたと考えるのはどうかな? とりあえず1週間、本社通いを頑張ってみようよ」
本当は、私だって怖かった。
次は自分かもしれないと思いながら、励ましていました。
消去法でしか選べない選択肢。それでも、私たちは生きるために、その重い扉を押し開けるしかありませんでした。
こうして始まった2年目。 しかし、この配置転換がさらなる「新しい展開」の幕開けになるとは、この時の私たちはまだ予想だにしていませんでした。


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