【第7話】5キロ激ヤセの果てに。消えた正社員と、私の中に芽生えた「冷徹な違和感」

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激ヤセの果ての退職。正社員という身分すら、この職場では盾にならない

限界のサイン。デスクで立ち尽くす背中

正社員Bさんの異変は、誰の目にも明らかでした。

「……痩せました?」

思わず私が声をかけると、彼は力なく「5キロ落ちた」とこぼしました。 「そりゃ、あれだけ毎日怒られ続けたらね……。僕も子供じゃないんだから……」 そうつぶやく彼の声は、今にも消え入りそうに細いものでした。

時折、彼は自分のデスクの前で立ったまま、うつろな目で遠くを見つめ、お腹をさすっていることがありました。 おそらく、極度のストレスで胃を病んでいたのでしょう。上司Aからの執拗な叱責が、確実に彼の心身を蝕んでいました。

休暇明けの通告。上司Aの「無表情」

8月の夏季休暇が明けたある日。 Bさんを除くメンバーが会議室に集められ、上司Aから冷淡に告げられました。

「Bさんは、退職することになりました」

その言葉を発する上司Aの顔には、罪悪感のかけらもありませんでした。 まるで、インクが切れたペンをゴミ箱へ捨てるかのような、あるいは使い古した事務備品を買い替えるかのような、あまりにも淡々とした口調。

「代わりの人は、すぐ募集しますから」

その一言に、私は背筋が凍る思いがしました。この組織にとって、人間はただの「数値」や「パーツ」に過ぎないのだと、突きつけられた気がしたのです。

正社員という「盾」すら通用しない現実

驚きはありませんでした。「やはりか」という思いだけです。 彼だけではありません。正社員という安定した身分にあっても、上司Aと合わない者は次々とこの席を去っていく。それが、この職場の隠しようのない現実でした。

周りもみんな、その異常さに気づいてはいました。けれど、誰もそれを変えようとはしなかったし、変えられるとも思っていませんでした。

人事も上層部も、回っている数字さえ問題なければ、現場の人間が一人消えることなど「誤差」程度にしか思っていない。そんな空気を全員が共有し、自分の身に火の粉が飛ばないことだけを考えていました。

ただ、私は彼に同情する一方で、どこか冷徹にこう考えている自分もいました。

「なぜ、あそこまで言われっぱなしだったのか」

新人ならともかく、40歳近い大人なら、なぜ「今は順番に業務を覚えている最中だ」と直談判しなかったのでしょうか。

私なら、上司Aに対してこう交渉します。 「いっぺんにこれだけの業務を引き継ぐのは物理的に厳しい。まずはこれを整理してから順番に進めたい」と。

自分を守る「牙」を持たない者の末路

理不尽な上司Aが悪いのは、百も承知です。 でも、ただ沈黙して飲み込み、自滅していく姿に、私はどこか「自分を守る強さ」の欠如を感じずにはいられませんでした。

上司Aは確かに理不尽でしたが、仕事を前向きにこなそうとする姿勢を見せる相手には、意外と寛容な一面もありました。 組織という戦場で生き残るには、優しさだけでは足りない。正社員という身分すら、自分を守る盾にはならない―。Bさんの去りゆく空席を見つめながら、私は「交渉という名の武器」を磨き直す必要性を、静かに噛み締めていました。

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